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第36回-起業人の切迫感

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民主党が悪かったのか、アベノミクスとやらのせいなのか、景気が悪いことこの上ない。とはいうものの、会社は一応の年間売上はあり、売上規模を聞いたサラリーマンからは「我々の年収よりも全然多いじゃないですか。羨ましい」と言われる。ところがこれは大きな勘違いだ。

仮に月の売上が100万円、年間売上が1200万円の「会社」があったとする。その会社は事務所を借りており、インフラもひと通り揃っているとする。自営業で従業員登録は社長1名のみ。バイトも雇いたいが、以下の状況ではバイト代は出ないだろう。
1200万円と言えば、上場企業でも決して悪くない年収だが、さて、年間売上が1200万円の「会社」の実態は?

月単位で計算してみる。まず事務所家賃に最低でも15万前後、もうこれで85万しか残っていない。次に光熱費と通信費。サラリーマンは全く意識したことがないであろう事務所の電気代やガス・水道代、電話代や携帯電話代ネット使用料なども「月100万」から支払う。これを3~4万円とすると残りは81万円。もう20%くらいが消えている。

交通費も自腹…というか、経費から支払われる。自宅から事務所ならばまだマシで、新幹線や飛行機を使った国内出張、宿泊費、タクシー代なども「月100万」から支払う(急な海外出張などかなり難しい)。これはまぁ、ざっくり5、6万円。残りは75万円になった。

どこかのタイミングで銀行の融資などを受けていると、その返済もある。これは月額では5~10万円くらいが相場だろうか。仮に8万円とすると残りは63万円。ここで40%が消えている。

色々な経費、雑費もある。どんな小さな会社でも、世間並みにお得意様を接待することもあるだろう。サラリーマンならば枠一杯に使ってやろうと思う「交際費」も、起業人にとっては大切な虎の子である。その他雑費の類。プリンター用紙も、交換用トナーも、トイレットペーパーも売上から支払う。たぶんここまでで残りは50万円代に突入している筈である。最初は100万円もあったのに…。

仮に残り50万円としても、12倍すれば年収600万円? とんでもない。まだまだ大きな伏兵が潜んでいる。税金、保険、年金と「退職金積立」だ。
税金は法人税もあれば地方税もあれば消費税もあれば源泉所得税もある。月額に割れば最低でも4、5万にはなるだろうか。健康保険と厚生年金も一部は会社が払う。これが実に月額で3、4万円にもなる。

退職金積立は盲点で、30代、40代のベンチャー起業家が「月収手取り50万」などとイイ気になっていると、60代に痛い目に遭う。手取り月収×12カ月で「昔の会社のヤツラよりも多い」などと考えるのはトンデモない勘違いで、「昔の会社のヤツラ」は定年退職時に一時金を貰う。それを含めて「生涯所得」なのだ。老後の人生設計はそこで決まる。これは民間の生命保険会社が「自営業者向け退職金積立保険」などをやっているので、毎月ここに数万円支払うことになるだろう。

ここまで来るともう残りは40万円くらいだ。ではその40万円を月収として貰えば満足か? この先がまだある。仮に40万円を-会社に現金をプールすることなく-そっくり給与として支払っても、個人の所得40万円から個人の住民税(均等割+所得税)を支払う。社会保険の個人負担分も支払う。モロモロざっくり月額3万としよう。

それでも手取りで30万円代あるではないか? 何かを忘れていないだろうか? この計算「月の売上が100万円、年間売上が1200万円」からスタートしており、ボーナスが加味されていない。先程の退職金と同じで、月額35万円×12カ月の”見た目”はサラリーマン並みに見えるかもしれないが、年収で考えるとボーナスの分、数十万から100万円以上が欠けているのである。

結論として「月の売上が100万円、年間売上が1200万円」ならば多分手取りは30万円前後でボーナスはなし。同年代のサラリーマンに比べ、ちょっと劣るくらい…が限界ではないだろうか。「年間売上1200万円」と「年収1200万円」はこんなに異なるのである。

一般に「自営業は、サラリーマンの3倍稼いで年収でトントン」と言われる。私も「3倍でトントン? もっと貰えるだろう!」と考えていたが、いや、会社というのは羽の生えたように現金が飛んで行く。

サラリーマンから見れば「そんなに稼いでいるのに何で浮かない顔をしているのか? 儲かっているのを隠しているのではないか?」と思えるかもしれないが…かなりの長文になってしまった起業人の切迫感。ご理解頂きたいところである。

逆に言うと、起業をして、ある生活レベルをキープしたいと考えるならば、これくらい引かれることを覚悟し、かなりの売上金額を狙わないとオハナシにならないということだ。「今の手取りが40万くらいだから、まぁ、毎月30~40万売り上げれば…」など何をかいわんやである(ウソのようだが本当にこう考えている人、こう言う人は少なくない)。起業は本当に厳しいのだ。
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